「久しぶり。俺のこと、覚えてる?」
中学時代に仲の良かった子から突然LINEが来た。
卒業してからは、一度も連絡を取ることも会うこともなくなって、自然と距離が離れていった、それくらいの距離感の奴だった。
俺はもちろん覚えていた。
そいつにカードゲームでボコボコにされた記憶が鮮明に脳に焼き付いているからだ。
そいつは圧倒的財力で俺だけでなく周りの友人もボコボコにしていた。拳ではなくカードゲームで。
間違いなく当時の地元の中学生カードゲーム環境のトップに君臨していたと思う。
※なのでこの記事内ではコイツのことを環境トップと呼ぶことにします。
よく覚えてるよ。クソ御曹司がよ。
あーーー、当時のこと思い出したらなんかムカついてきたわ。
あのときの続きやるか?おお?
それくらいの思いを胸に秘めながら「久し振り」とLINEを送ると返事はすぐに来た。
環境トップ「覚えてくれて嬉しい」
俺「もう、忘れるわけないじゃん」
環境トップ「よく一緒に遊んだよね」
俺「懐かしいなあ」
お互いに上辺だけを優しく撫でるような、愛撫みたいな会話がしばし続く。どれだけ話しても本題が見えない。
何こいつ、俺に会いたくなって連絡してきてる?
会いたいけど正直に言い出せないの?なに、恋する乙女?
いや、違うな。もし俺に会いたくて連絡しているのならばもっと早く連絡してるはずだ。
何か目的があって連絡してきているはず。
そっちが切り出さないって言うんならこっちから切り出してやろうじゃん。
俺「急に連絡くれるなんて珍しいね。どうしたの?」
環境トップ「そうだよね。急だよね。懐かしくてつい。ねえ、あの頃あったこと覚えてる?」
前戯はもういいって。こっちはお前と本題に入りたくて仕方ないんだよ。
環境トップ「実は結婚式をすることになったんだ。ぜひ来てほしくて」
何だ、そういうことか。おめでたいことじゃんか。
それならそうと言ってくれればいいのに。
行くよ。もう全然行くよ。
俺「いつやるの?」
環境トップ「一週間後」
はいはい一週間後ね。
…
……
一週間後ぉ!?!????!?
スピード感ヤバくね!???
全ッ然ついていけないんだけど!?!?
いや待て。打ち間違いの可能性がまだ残っている。一ヶ月後って打ちたかったのかもしれない。
いやきっとそうに違いない。だって急すぎるもん。
中学生が遊びに誘うのとはワケが違うんだぞ。
もう一回送ってもらおう。
俺「ごめん。トーク来た瞬間に間違って消しちゃった。もう一回送って」
環境トップ「一週間後」
ヤバいって。
マジで一週間後なんだ。
まだ一度も誘われたことないから分かんないんだけど、結婚式って「来週遊べる?」みたいなノリで誘われるもんなの?
もっとこう、招待状とかさ、そういうのあるんじゃないの?
これ、もしかして昔の価値観?
今はLINEでカジュアルに誘うのが主流になってんの?
まあいい。まだ希望はある。俺の仕事はシフト制だ。
もしかしたら、たまたまちょうどワンチャン休みかもしれない。
シフトを確認する。
…
……
やっぱ仕事だわバカがよ!
俺「そんな急に誘われて行けるかバカタレ(ごめん、仕事入っちゃってるわ)」
こうしてこいつとのやり取りは終わった。
それから一ヶ月ほど経った頃。
今度は高校時代の友人から結婚式を上げるとの連絡が来た。
「いつ……?」
環境トップの前例があったので、俺は震える声でそいつに聞いた。
「半年後」
だよなあ!やっぱこれくらいのスピード感だよなあ!