高校の時の世界史の先生、授業とは全く関係のない雑談から入ったりするタイプの先生だった。
その日も先生は絶好調だった。
「美味しいブドウを食べて思わず出た一言、とは何でしょう?」
教室内を沈黙が支配する。意味が分からない。
美味しいぶどうを食べたんなら「美味しい」じゃねーの?
なに、どういうこと?
教室内全体に微妙な空気が流れる。
「ヒントはダジャレです」
それを察した先生がすかさずヒントを出すが、それでも誰も正解に辿り着けてない様子だった。
ただ、一人を除いて。
そう、俺だ。
俺だけは違った。そのヒントが出た瞬間、脳のシナプスが奇跡的な閃きを見せ、一つの回答を導き出した。
というのも当時、俺はしょうもないダジャレを言うことがよくあったからだ。
俺はス、と手を上げる。
クラス全員とまではいかずとも少なくとも男子全員は、自信満々に手を上げた俺を見てこう思ったに違いない。
「(ぽぽすこ、お前の出番だ。かましたれ)」
と。
そして俺は抱腹絶倒不可避の渾身の回答を繰り出した。
「ま〜スカッと(マスカット)」
ブドウの瑞々しさを"スカッと"という言葉で表現、ちゃんとダジャレにもなっているし、文脈の意味もきちんと通っている。
100点の回答だろ、これ。
もうね、俺を賞賛する未来が見えますわ。
\あのカスみたいな問題とヒントからこれほど完璧な回答をスパーンと返せるなんて!!!/
\面白過ぎて涙が止まらん/
\抱いて〜〜!!!/
だが、現実は厳しかった。
返ってきたのは静寂。先生も、クラスメイトも、隣の親友も、幼馴染も、誰一人として微塵も笑っていなかった。
あ、これスベったわ。
最悪だ。もうこれ今日帰ろうかな。具合悪くなってきた。
嫌なことランキング1位が"スベること"なんだよ。
ちなみに2位は"死"です。
いや、ていうか?別に?ウケを狙ったわけじゃねーし?
これ、クイズだから。正解当てりゃいいんだから、当てりゃ。
あーあーあー、俺を賞賛する未来が見えますわなぁ!!
\マジかよ、アイツ当てやがった/
\IQ……300、だと!?!???/
\抱いて〜〜!!!/
ほら、先生!!!焦らしてないで!
正解!って言ってくださいよ〜〜!!!!!
先生「違います」
違うんかい。
最悪だ。もう今日ダメだ。本当に具合悪くなってきた。
ダジャレは微塵もウケないし、クイズは外すし。
何で先生はこんなクイズを出したんだ。
思考を巡らせると、脳のシナプスが再度奇跡的な閃きを見せ、一つの結論を導き出す。
……俺がつまんねえ誤答でハードル下げたところで、先生が正解言って爆笑……?
これだ。俺と世界史の先生で一つの笑いを作る、そういうことですね先生!!!
これなら「損な役回り、よく率先してやったね」って自分を褒めて気持ちよく終われるわ。そうだわ。
さあ、先生!!!俺の屍を越えて、爆笑必至の回答、決めてやってくださいよ!!
「正解はきょほ〜!(巨峰)です」
最悪だ。頭痛くなってきた。正解もクソおもんない。
なんなの?先生はどういう意図でこのクイズ出そうと思ったの?
ダジャレ思いついたけど普通に言うとスベるからクイズにしよ、ってか?
ジジイのエゴじゃん、それ。
それともシンプルにアイスブレイクのつもりだったの?
アイスブレイクどころか、教室の空気と俺のメンタルがブレイクされたんだけど。
10年経った今でもスベったの覚えてるから、相当嫌だったんだと思う。