中学生のときの話だ。
空は厚い雲に覆われて、雪がしんしんと降っている。そんな感じの日だった。
俺は友人の高彰(たかあき)という男と2人で下校していた。
俺「高彰見ろよ~~滑るぞ~~うひょ~~!!!」
高彰「そんなはしゃいでると転んで怪我するぞ」
親子のやり取りでは?なんて会話を繰り広げていると
「おーいぽぽすこ〜」
後ろから俺を呼ぶ声がしたので振り向くと、康太という別のクラスの友人が手を振って小走りでこっちに向かってきていた。
俺は「おー」と歩くのをやめ、康太がこっちに来るのを待った。
あと数m、といったところで
康太「くらえ!!」
なんと康太が飛び膝蹴りを繰り出してきた。
俺「う"っ!!!!!!!!!!」
まさか出会い頭に仲のいい友人から蹴りが、しかも膝が、飛んでくるとは思わなかったので蹴りが肋骨にモロに入った。
理不尽な暴力にキレようとすると、康太は着地に失敗して
すてーん!!!
と足を滑らせて盛大に転んだ。
見事な転びっぷりだったので俺と高彰は爆笑した。
これだけ笑っても康太は一つも言い返してこない。様子が変だ。
し、いつまで経っても康太は立ち上がらず、足首を押さえてうずくまっていた。
康太は、途切れ途切れのか細い声でこう言った。
康太「骨、折れたかもしんねぇ……」
…
……
………
えっ!?
んなバカな話があるかよ。エイプリルフールならあと2カ月も先だぞ。
とは思ったものの、康太の顔はガチ100%。
そういえば康太は前にも骨折したことがあった。
確か小学生の頃だ。自転車に乗ろうとしたらバランスを崩して転んで、そのときに手を付いたら折れた、とか言ってた気がする。
スペランカーかよ。(不謹慎)
道路のド真ん中だったのでひとまず高彰と一緒に肩を貸して、歩道の方に連れて行った。
俺「俺らじゃどうしようもねーし、とりあえず先生呼んで来るかぁ」
高彰「そうだな、急ごう!」
めっちゃシリアスな顔で高彰はそう言うと、全力ダッシュして学校の方へと向かった。
おいおいおいそんな『事態は一刻を争う』みたいな、深刻そうな顔すんなよ。
もう、なんか、ダメだ。面白すぎる。状況が面白すぎる。
俺に飛び膝蹴り食らわせてきたやつが、着地ミスって骨折したかもって、蹴りを肋骨に受けた被害者が助けを呼びに行くっていう
もうアホのオンパレードみたいなシチュエーションで笑いが込み上げてきた。
ていうか誰も俺の心配しないじゃん。俺も肋骨折れてるかもしんねーんだけど!?!????(折れてない)
…いや、俺もシリアスで行こう。友人が怪我してんのにヘラヘラしてんのはどうかと思うわ。
不幸中の幸いか、康太が転んだのは学校の近くだった。
校門の近くにいたのは、これまた運のいいことに俺らの学年主任の先生だったので声をかけた。
俺「先生!……フフッ……あの、康太が…ンフッ」
ダメ、もうね、ダメ。頑張って俺もシリアスな感じで行こうと思ったけどダメ。
やっぱシンプルに骨折したっていうなら話は別だけど、俺に飛び膝蹴りして着地に失敗して骨折してるからね。
なんかもうどんな顔して説明すりゃいいのよって。
俺、被害者なんだけどなんか申し訳ない気持ちになってるもん。
なんで?どうしてこんな申し訳ない気持ちになってんの?心優しき生き物か?
俺がその場にいなければ康太は骨折しなかった、みたいな?
なんなの?これ、俺が悪いの?
高彰「先生!康太くんが骨折しちゃって!車出してもらえませんか!?」
高彰、何でそんなシリアスになれるんだよ……。お前、友だち思いのいいやつだよ本当。
先生「骨折!?!?何があった!!!?車に轢かれたとかか!?」
骨折と言う単語を聞いて先生は顔色を変えた。先生もシリアスじゃん、本当にやめてくれ。
俺・高彰「「……えっ……と……」」
言えなかった。
言ってしまったら康太のプライドというか名誉というか、そういうのを傷つけてしまう気がして。
俺に飛び膝蹴りをして骨折した、なんて言えなかった。
この事実を知ってるのは俺らだけでいい。バカ正直に言う必要なんてないじゃないか。
周りにはクラスメイトとか同学年の生徒がまだまだ多くいた。
この場で俺らが正直に言ったとして、クラスメイトがそれを聞いて広めてしまう可能性がある。
そんなことになったら康太のあだ名が『着地失敗骨折ボーイ』とか『飛び膝蹴り下手くそマン』とかになってしまう。
そんなの可哀想すぎる。
俺「滑って転んじゃって」
高彰も言い淀んでいたので、俺は適当にごまかした。あながち嘘じゃないし。
先生「滑っ……ハァ?あのなあ、お前おちょくってんのか!?育ち盛りの中学生の骨がそんなんで折れるか!??」
ところがどっこい、折れてんだよな!!?
先生の車に乗り込み、康太のところまで向かうことになった。
その間も先生は「そんなんで折れるわけねえ。年寄りのじいさんじゃねーか」
とぼやいていた。俺の言い分どんだけ信用されてねーのよ。
事故現場(笑)に着くと、康太はやっぱりしんどそうな顔でうずくまっていた。
それを見た先生は車から出て、康太に駆け寄った。
先生「お前本当にすっ転んで骨折ったのか」
康太「はい……ぽぽすこ君に飛び膝蹴りしたら転んじゃって……」
俺らの気遣いが一瞬で無に帰した。もう勝手にしてくれ、着地失敗骨折ボーイ。
先生「お前何やってんだよ…」
いや、先生本当におっしゃる通りですわ。