朝11時。寝ている彼女に声をかける。
「うぅん……」と険しい顔をしながら唸り、寝返りを打つ。
今日は起きれない日みたいだ。
俺はもう一回声をかけようとして、やめた。
気持ちよさそうに寝てるところに水を差すのはよくないな。
自然に起きるのを待とう。
洗濯、掃除、皿洗い。今日もいつも通りの家事をこなす。
ひと通り終えて伸びをしていたところ、彼女が目を覚ました。
「お腹空いた」
まだ眠そうな目をこすりながらの第一声。
「おはよう。魚食べる?」
「食べる」
幸い、冷蔵庫には食べ物がたくさんある。
数日前、彼女の家の方から物資が送られてきたのだ。
地元のお菓子&食材やらなんやら、彼女の分だけでなく俺の分まで、きっちり2人分。
ありがたい通り越して少し申し訳なくなってくるな。
仕事が落ち着く夕方くらいに一緒に買い物に行こうということになった。
それまでに買う必要がある物のピックアップを済ませておこう。
そういえば朝にアレ買わなきゃな、って思ったんだよな。何だっけ。
アレだよ、アレ。うーん、と考えるも思い出せない。
「食パン?トイレの芳香剤?」
何だっけなあ、とぼやいていた俺を見かねて彼女が助け舟を出してくれた。
「あ~そいつらも買わなきゃだ。ありがとう」
とは言ったものの朝買わなきゃって思ったのとは違うんだよな。でもトイレの芳香剤はちょっと方向性近い気がするんだよなあ。
あ~思い出せない。まあ、いっか。
スーパーに行く道中、どこのお店も『テイクアウトやってます』の張り紙が貼られている。
餃子のお店、一軒飛んで、また餃子のお店。
行きたいね、とは話しつつもまだ行けてないんだよな。
餃子のいい匂いが風に乗ってこっちにやって来る。
「あ~餃子食べた~い炒飯食べた~いラーメン食べた~い」
日高屋じゃん。心が日高屋を欲してるじゃん。
結局、朝に必要だなあって思ったものは買い物を終えてスーパーを出ても思い出せなかった。
「今日が何の日か、覚えてますか」
少し嬉しそうな声音で彼女が聞いてきた。14日。もちろん覚えている。
「付き合った記念日だね。ケーキとか買ってこうか」
「うん」
付き合う前はお互い「記念日はあんまり気にしない」と言ったものの記念日が来るたびにこうしてケーキとかを買ったりして小さく祝ってる。
気にしないって言っただけで、祝わないなんて誰も言ってないから。
まあ、何て言うの。男で「記念日めっちゃ大事にしてるよ」(イケボ)なんて言ってたら重い男って思われそうな気がして嫌だったんだよな。
「ちょうどあそこ行ってるくらいの時間かな」
「かもな」
「厳密に言ったらまだ付き合ってないよね」
「告白したの夜23時とかだったもんなあ」
在学中はマジで大した交流がなかったので正直、付き合ってることが未だに信じられないときがある。
だから14日になる度にこうして「あの時こうだった」、「アレ面白かったよね」って告白した日のこととかを話して付き合ってるって再認識してるのかもしれない。
なんだそのシステム
あ、そういえば思い出した。買おうと思ってたやつ、クイックルワイパーだ。
今度は忘れないようにしっかりメモに残した。