高校2年のちょうど今くらいの時期だ。
誰かが言った。
「チョコ欲しいけど、もらえないよなあ」
また誰かが言った。
「貰えないなら作ればいいのでは?」(末期症状)
俺はなるほどと思った。作れば好きなだけ食えるし、しかも女子たちには家庭的な一面もあるとアピールできる。
こちらにアドバンテージしかない。一石二鳥すぎる。
こうして仲間内で『誰が一番女子力の高いものを作れるか選手権』が開催されることとなった。
内情は義理チョコも貰えない悲しき男たちの鎮魂歌なのが涙を誘う。
後に血のバレンタイン事件と呼ばれることになる。(ならない)
俺は考えた。
今回作るのは『単に美味しい』ものではなく『女子力の高い』もの。
求められてるのは製菓の腕だけじゃない。
何を作るか、というお菓子のチョイスの時点でもう勝負は始まっている。
周りと被るような、メジャーなものは論外だろう。クッキーとか生チョコとか。見た目のパンチ力が無いし、何より被った場合、味の勝負になる。
俺は雑な性格なので味も大雑把になってしまうと予想される。そうなると相手にもよるが、勝ち上がるのは難しいだろう。
そこで思い浮かんだのは「わたあめ」だった。
まず被らない、ゆるふわで可愛いくて女子力高い、雑でも作れる(多分)、と三拍子揃っていた。
それにしても、真っ先にわたあめが出てくる辺り、脳みそがゆるふわなことに間違いはない。
バレンタインにわたあめというインパクト、創造性は計り知れないが、そもそも機械がないと難しい。
面白さはあるけど却下だ。
やっぱりバレンタインとなると、配ることも考えてある程度まとめて数が作れるものであることも重要だ。
本命かどうかはラッピングでアピールすればいいんだ。
ていうかそもそも男どもに配るなら本命もクソもない。
だって皆本命だから。(イケボ)(突然のホモ)
・女子力アピールできるもの
・周りと被らないもの
・数が作れるもの
この全ての条件がそろったお菓子はそう多くないはずだ。俺の頭脳が導き出した答えは……
そうだ、マカロンを作ろう。
まず作ろうと思わない、女子力絶対高い、数も多く作れる。
女子力の頂点だ。
これだ、これしかない。今に見ておけ野郎ども。
そしてバレンタイン前日、レシピ通りに作ってみたが、やはり女子力の頂点、一筋縄では行かなかった。
粉ふるいがなくて裏ごしする器材で代用したり、手動の泡立て機でメレンゲを作ったり、マカロナージュという作業があるんだけど、それが何かよく分からないままマカロナージュやったりだとか
幾多もの試練を乗り越えてついに焼く工程までたどり着いた。
オーブンから取り出すとそこには美味しそうなマカロンが……
※イメージ画像
待っていなかった。
!?
!?!??!??
マカロン、完成です。
作戦変更
待て待て待て待て。
このままではマズい。イキってマカロンを作って失敗した男、というただの笑いものになってしまう。
俺は咄嗟に思いついた第2のプランでいくことにした。
その名も『マカロン作るフリして実はクッキー作りました作戦』だ。
周りの男たちには散々「俺マカロン作っから」などとイキり散らしていたが、それをブラフにしてしまおうという作戦だ。
マカロン作るやつがいる、とビビらせて他の参加者のミスを誘う作戦の一環で「マカロン作るわ」と言った、ということにする作戦だ。(ややこしい)
これだけこんがり焼けてるんだ。クッキーって言って持っていってもバレな……中が生焼け―!!!!!!
作戦変更(2回目)
ダメだよやっぱそういうのは。
やっぱり嘘は良くないよ、嘘は。
カッコ悪いよ、一番。
正直に言おう、マカロン作ったんだけど失敗しました、って。
しかし、それだけではただのマカロン作りに失敗した情けない男だ。
俺は手にベタベタに絆創膏を貼った。
今回の作戦、名付けて
『君のために頑張ったんだけど、失敗しちゃったんだ作戦』だ。
こういうのだ。俺自身、男だから分かる。こういうのに男は弱いんだ。
「料理苦手だけど頑張ったの」感を出して野郎どもに「俺のためにそこまでして……」と思わせるのだ。相手が男だから使える手である。
行くぞぽぽすこ、勝ちは目の前だ。
味だけが、見栄えだけが、お菓子じゃない。過程こそが大事なのだ。誰かを思って作ることに意味があるのだ。
野郎「マカロンって別に包丁使わなくね?」
その日、俺は笑いものになった。